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ゼロタッチキッティングとは?導入メリットや仕組み、注意点などを解説

企業のデジタル化が急速に進む中、新しいデバイスの導入やリプレイス作業は情報システム部門にとって大きな負担となっています。特に、複数拠点での同時展開や在宅勤務者への配布など、従来のキッティング作業では限界があるのが現状です。
そこで注目されているのが「ゼロタッチキッティング」です。この革新的な手法により、管理者が物理的にデバイスに触れることなく、遠隔でのセットアップが可能になります。
本記事では、ゼロタッチキッティングの基本概念から仕組み、導入メリット、さらには実装時の注意点まで解説します。
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ゼロタッチキッティングとは
ゼロタッチキッティングの定義
ゼロタッチキッティングとは、企業が従業員に配布するPCやスマートフォン、タブレットなどのデバイスを、IT担当者が物理的に触れることなく、初期設定から業務利用可能な状態まで自動的に準備するプロセスを指します。
「ゼロタッチ」という言葉が示す通り、手作業を最小限に抑え、デバイスを箱から出して電源を入れるだけで、必要なアプリケーションのインストール、セキュリティ設定、ネットワーク接続設定などが自動で完了します。これにより、デバイス展開の効率化とIT管理者の負担軽減を実現します。
従来のキッティングとの違い
従来のキッティングは、IT担当者がデバイスを一台ずつ手作業で開封し、OSのインストール、ドライバーのセットアップ、セキュリティソフトの導入、各種業務アプリケーションのインストール、ネットワーク設定、ユーザーアカウントの作成などを行うのが一般的でした。
従来の方法ですと、
・時間と手間がかかる
・人為的ミスが発生する
・コストが増加する
といった課題がありましたが、その一方で、ゼロタッチキッティングでは、これらの課題を解消することが可能です。
デバイスは工場出荷状態のまま直接ユーザーに配送され、ユーザーが電源を入れるだけで自動的に設定が完了するため、担当者の作業負担が大幅に軽減され、人為的ミスも抑制されます。また、場所を選ばずにデバイスを展開できるため、リモートワーク環境や多拠点展開にも柔軟に対応可能です。
ゼロタッチキッティングが注目される背景
ゼロタッチキッティングが近年特に注目されている背景には、以下のような社会やビジネスの変化が挙げられます。
リモートワーク・ハイブリッドワークの普及
働き方の多様化により、従業員がオフィス以外の場所でデバイスを受け取り、設定するニーズが増加しました。ゼロタッチキッティングは、場所を問わずにデバイスを展開できるため、このニーズに合致します。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進
企業が業務プロセスのデジタル化を進める中で、IT資産の効率的な管理と運用が求められています。キッティング作業の自動化は、DXの一環としてIT部門の生産性向上に貢献します。
セキュリティリスクへの対応
標準化された自動設定により、デバイスごとに異なる設定やセキュリティポリシーの適用漏れを防ぎ、企業全体のセキュリティレベルを均一に保つことができます。
ゼロタッチキッティングの仕組み
クラウドとMDM/UEMを活用した自動化プロセス
ゼロタッチキッティングの仕組みは、主にクラウドサービスとMDM(モバイルデバイス管理)またはUEM(統合エンドポイント管理)ソリューションの連携によって実現されます。これにより、デバイスの電源を入れるだけで、事前に定義された設定やアプリケーションが自動的に適用され、すぐに利用可能な状態になります。
デバイスの事前登録と紐付け
まず、企業が購入したデバイスは、ベンダー(Apple、Google、Microsoftなど)の提供するプログラムを通じて、または手動で、MDM/UEMソリューションに事前登録されます。この登録により、デバイスのシリアル番号やIMEIなどの識別情報が、企業のMDM/UEMアカウントと紐付けられます。
デバイスの自動認識とプロファイルの適用
ユーザーがデバイスの電源を入れ、インターネット(Wi-Fiなど)に接続すると、デバイスは自動的にMDM/UEMサービスに接続し、自身の識別情報を送信します。MDM/UEMサービスは、この識別情報に基づいて、事前に管理者が作成・設定したプロファイル(ポリシー、設定、アプリケーションリストなど)をデバイスにプッシュします。
設定とアプリケーションの自動ダウンロード・インストール
プッシュされたプロファイルに従い、デバイスは必要なOS設定(Wi-Fi、VPN、セキュリティポリシーなど)を自動的に適用し、業務に必要なアプリケーション(Officeスイート、社内アプリなど)をクラウドから自動的にダウンロードしてインストールします。このプロセスは、ユーザーがほとんど介入することなくバックグラウンドで進行します。
ユーザーへの引き渡しと利用開始
一連の自動設定が完了すると、デバイスは企業が求めるセキュリティ基準と設定が施された状態で、すぐに業務に利用できる状態になります。ユーザーは最小限の初期設定(例えば、Microsoft 365のアカウント認証など)を行うだけで、すぐに業務を開始できます。これにより、IT部門の手間を大幅に削減し、ユーザーは迅速に新しいデバイスを利用開始できます。
ゼロタッチキッティングの導入メリット
作業効率の大幅向上
ゼロタッチキッティングを導入することで、デバイスの初期設定やアプリケーションのインストールといった一連のキッティング作業を自動化できます。これにより、IT管理者が一台ずつ手作業で行っていた工数を大幅に削減し、作業時間を劇的に短縮することが可能です。
設定ミスなどの人的エラーも最小限に抑えられ、デバイス展開のリードタイムが短縮されるため、従業員は新しいPCやスマートフォン、タブレットをすぐに利用開始でき、ビジネスの生産性向上に貢献します。
運用コストの削減
キッティング作業の自動化は、IT担当者の人件費削減に直結します。手作業によるキッティングに必要な時間や労力が不要になるため、IT部門のリソースをより戦略的な業務に割り当てることが可能になります。
また、デバイスの配送先で直接設定が完了するため、一時的なキッティングスペースの確保や、遠隔地へのデバイス輸送・出張に伴う物流費や移動費といった間接的なコストも削減できます。これにより、ITインフラ全体の運用コストを最適化し、予算の効率的な活用が期待できます。
拠点・場所を選ばない展開
ゼロタッチキッティングは、デバイスを従業員の自宅や遠隔地のオフィス、海外拠点など、場所を問わず直接配送し、電源を入れるだけで自動的に設定が完了する仕組みを提供します。これにより、リモートワークやハイブリッドワークが普及する現代において、従業員の働き方に柔軟に対応しながら、企業全体のITガバナンスを維持することが容易になります。
物理的な距離による制約がなくなるため、事業拡大に伴う多拠点展開や、災害時などの緊急時におけるデバイス供給体制の構築にも貢献し、ビジネス継続性を高めることが可能です。
ゼロタッチキッティングの実装方法
ゼロタッチキッティングを実現するためには、適切なツールの選定と、各プラットフォームが提供する登録プログラムの活用が不可欠です。ここでは、具体的な実装ステップと必要な要素を解説します。
①MDM/UEMソリューションの選定と導入
ゼロタッチキッティングの中核となるのが、デバイスの一元管理を行うMDM(モバイルデバイス管理)またはUEM(統合エンドポイント管理)ソリューションです。デバイスの登録、設定プロファイルの適用、アプリケーションの配布、セキュリティポリシーの設定など、すべての管理はMDM/UEMを通じて行われます。
代表的なソリューション例: Microsoft Intune、Jamf Pro、VMware Workspace ONEなど
選定のポイント: 管理対象デバイスの種類(Windows、macOS、iOS、Android)、既存のITインフラとの連携、必要な機能、予算などを考慮して最適なソリューションを選びます。
②デバイス登録プログラムの活用
デバイス登録プログラムは、購入したデバイスを自動的にMDM/UEMに登録し、企業の設定を適用するための仕組みです。主要なOSごとに異なるプログラムが存在します。
Windowsデバイスの場合:Windows Autopilot
Microsoft Entra ID(旧 Azure AD)とMicrosoft IntuneなどのMDMを連携させ、デバイスが初回起動時に自動的に企業の設定が適用されるようにします。デバイスのベンダーから購入時にデバイスIDを登録することで、このプロセスが有効になります。
Appleデバイス(iPhone, iPad, Mac)の場合:Apple Business Manager (ABM) / Apple School Manager (ASM)
ABMまたはASMを通じて購入したデバイスをMDMに自動的に登録します。デバイスがネットワークに接続されると、MDMから指定された設定プロファイルが自動的にダウンロード・適用されます。
Androidデバイスの場合:Googleゼロタッチ登録
対応するAndroidデバイスをベンダーから購入し、Googleのゼロタッチ登録ポータルを通じてMDMに紐付けます。デバイスが電源投入され、ネットワークに接続されると、自動的にMDMエージェントがインストールされ、設定が適用されます。
③設定プロファイルの作成とポリシーの定義
MDM/UEM上で、デバイスに適用する各種設定やポリシーを定義したプロファイルを作成します。これにより、セキュリティ基準、ネットワーク設定、利用可能なアプリケーションなどを標準化できます。
④展開とユーザーへの配布
上記の設定が完了したら、デバイスをユーザーに配布します。ユーザーはデバイスの電源を入れ、ネットワークに接続するだけで、自動的に企業の設定が適用され、すぐに業務を開始できます。
ゼロタッチキッティング導入時の注意点
セキュリティリスクへの対策
デバイスがネットワークに接続され、自動的に設定が適用されるゼロタッチキッティングは、セキュリティ対策が不十分だと新たなリスクを生む可能性があります。初期設定時にデバイスが安全な経路で認証され、正しいポリシーが適用されるよう、厳格なセキュリティ設定が求められます。
具体的には、デバイスの盗難・紛失時に備えたリモートワイプやロック機能の導入、多要素認証(MFA)やシングルサインオン(SSO)を活用した認証情報の強化、VPNやファイアウォールによる不正アクセス対策、そしてエンドポイントセキュリティソリューションの導入が挙げられます。定期的なセキュリティポリシーの見直しと、ファームウェアやOSの脆弱性に対する迅速なパッチ適用も欠かせません。
ネットワーク環境の要件
ゼロタッチキッティングは、デバイスがインターネットに接続されていることを前提としています。初期設定時や、その後のポリシー適用、アプリケーションのダウンロードなどにおいて、安定したネットワーク環境が必須です。特に、多数のデバイスを同時に展開する場合や、大規模なOSイメージをダウンロードする際には、十分な帯域幅が確保されているかを確認する必要があります。
また、企業のネットワーク環境によってはプロキシサーバーやファイアウォールが設定されていることがあり、これらの設定がゼロタッチキッティングの通信を妨げないよう、事前の調整が必要です。Wi-Fi環境でキッティングを行う場合は、SSIDやパスワードの事前設定、あるいは802.1X認証などの複雑な認証方式への対応も検討しておくべきです。
トラブル時の対応方法
ゼロタッチキッティングは自動化を促進しますが、予期せぬトラブルが発生しないわけではありません。デバイスが正常にプロビジョニングされない、特定のアプリケーションがインストールされない、ネットワークに接続できないといった問題が発生した場合に備え、明確なトラブルシューティング手順とサポート体制を確立しておくことが重要です。
また、MDM/UEMベンダーやデバイスメーカーとの連携を密にし、必要に応じて専門的なサポートを受けられる体制を整えておくことも、安定運用には不可欠です。
まとめ
ゼロタッチキッティングは多くのメリットをもたらしますが、導入には専門的な知識とノウハウが必要です。特に、多数のデバイスを一度にキッティングする場合や、複雑な設定が求められる場合は、自社での対応が大きな負担となることも少なくありません。
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